WEBマーケターは、なぜCMOになれないのか
技術と作業を管理できても、事業をマネジメントできない人がぶつかる壁について、Happy Marketing代表・友貞ファラ洋輔に聞きました。

広告運用ができる。SEOも分かる。SNSも運用できる。LP改善もできる。GA4やヒートマップを見ながら、数値改善もできる。
WEBマーケターは、非常に実務力の高い職種です。
しかし一方で、一定のキャリアを積んだWEBマーケターが、CMOや事業責任者のポジションに上がれないケースも少なくありません。
現場では成果を出している。メンバーに技術も教えられる。広告運用や制作進行など、作業のマネジメントもできる。それでも経営者から見ると、「マーケティング全体を任せるには、少し不安がある」と思われてしまう。
なぜなのか。
Happy Marketing代表の友貞ファラ洋輔は、その理由を「WEBマーケターの育ち方」にあると話します。
友貞は、広告代理店出身でも、大手企業出身でもありません。独立当初から大企業との強いコネクションがあったわけでもありません。それでも、大手メーカー、大手メディア企業、上場企業、成長企業など、一定規模以上の企業と継続的に仕事をしてきました。
その過程で見えてきたのは、WEBマーケターがCMOに近づくためには、広告やSEOの知識を増やすだけでは足りないということ。
必要なのは、技術のマネジメントでも、作業のマネジメントでもなく、事業のマネジメントです。
WEBマーケターが戦略マーケターに変わるには、何が必要なのか。なぜ、スペシャリストとして優秀な人ほど、経営視点に上がりにくいのか。友貞に聞きました。
WEBマーケターは優秀。でも、経営から見ると不安が残る
――WEBマーケターは実務力が高い一方で、CMOや事業責任者には上がりにくいという話があります。まず、この点をどう見ていますか。
友貞: WEBマーケターは、優秀な人が多いと思います。
広告を回せる。SEOを理解している。SNSも見られる。LP改善もできる。数字にも強い。改善スピードも速い。これは間違いなく強みです。
ただ、経営者や事業責任者から見たときに、「マーケティング全体を任せられるか」となると、少し違う話になります。
なぜかというと、WEBマーケターが見ている範囲は、どうしてもWEB上の成果に閉じやすいからです。
CPA、CVR、CTR、ROAS、流入数、検索順位、リード数、問い合わせ数。もちろん、これらは重要です。でも、経営者が見ているのは、それだけではありません。
売上が伸びるのか。利益が残るのか。どの市場で勝つのか。どの顧客を狙うのか。なぜ選ばれるのか。営業は受注できるのか。商品価値は伝わっているのか。組織は実行できるのか。
ここまで見ています。
WEBマーケターがCMOに上がりにくい理由は、広告やSEOのスキルが足りないからではありません。
事業全体を見る経験が不足しやすいからです。
WEBマーケターは、スペシャリストとして育ちやすい
――なぜ、WEBマーケターは事業全体を見る経験が不足しやすいのでしょうか。
友貞: 育ち方の問題が大きいと思います。
WEBマーケティングは、専門領域が細かく分かれています。
広告運用、SEO、SNS、LP改善、アクセス解析、CRM、MA、メール、タグ設計、ヒートマップ、フォーム改善。それぞれに専門知識が必要です。だからWEBマーケターは、自然とスペシャリストとして育ちやすい。
広告担当は広告を見る。SEO担当は検索を見る。SNS担当は投稿を見る。LP担当はCVRを見る。解析担当は数値を見る。担当領域ごとに成果を出すことが求められます。
これは強みです。
ただし、スペシャリストとして育つほど、見ている範囲が狭くなることがあります。
自分の担当領域の数字は改善できる。でも、その改善が事業全体にどう効いているのかまでは見られていない。
ここに壁があります。
技術のマネジメント、作業のマネジメント、事業のマネジメントは違う

――WEBマーケターが得意なマネジメントと、CMOに必要なマネジメントは違うということですね。
友貞: かなり違います。
WEBマーケターが得意なのは、大きく言うと二つです。
一つ目は、技術のマネジメントです。
広告管理画面の見方を教える。SEOの考え方を教える。分析ツールの使い方を教える。LP改善の型を教える。タグや計測の設計を管理する。こうした専門技術の教育や品質管理は、WEBマーケターが得意な領域です。
二つ目は、作業のマネジメントです。
入稿、記事制作、レポート作成、改善施策、投稿管理、制作進行、運用体制、タスク管理。これもWEBマーケターは得意です。現場を回す力がある。
ただ、CMOや戦略マーケターに必要なのは、その先です。
事業のマネジメントです。
どの市場で勝つのか。誰を顧客にするのか。なぜ選ばれるのか。価格は妥当なのか。商品価値は伝わっているのか。営業は受注できる状態か。粗利は残るのか。LTVは伸びるのか。ブランドは長期的に強くなるのか。経営目標とマーケティング施策はつながっているのか。
ここを見る力です。
技術を管理できること。作業を管理できること。事業を管理できること。この三つは、似ているようで全く違います。
スペシャリストとして優秀な人ほど、ジェネラリストの筋肉が育ちにくい
――スペシャリストとして優秀であるほど、逆にCMOにはなりにくいのでしょうか。
友貞: 必ずしもそうではありません。
ただ、スペシャリスト性が強すぎると、ジェネラリストとしての力が育ちにくいことはあります。
CMOに必要なのは、すべての施策を自分で完璧に実行する力ではありません。
広告の役割。PRの役割。営業の役割。商品開発の役割。ブランドの役割。採用やIRへの影響。顧客体験全体。経営指標との接続。こうしたものを横断して見る力が必要です。
つまり、ジェネラリストとしての要素が必要になる。
WEBマーケターは専門性が強いので、どうしても「自分の領域で成果を出す」方向に成長しやすい。でもCMOは、「どの領域をどう組み合わせて事業を伸ばすか」を見る役割です。
広告を改善するだけではなく、広告を増やすべきなのか、営業を整えるべきなのか、商品価値を言語化すべきなのか、価格を見直すべきなのか、ブランドを積み上げるべきなのかを判断する。
ここにキャリアの断絶があります。
WEBマーケターは改善する。CMOは選択する
――戦略マーケターやCMOは、WEBマーケターと何が違うのでしょうか。
友貞: 一番大きいのは、改善ではなく選択を扱うことです。
WEBマーケターは改善が得意です。
CPAを下げる。CVRを上げる。流入を増やす。検索順位を上げる。クリック率を改善する。フォーム離脱を減らす。これは非常に大切です。
ただ、改善は、すでに決まった方向の中で精度を上げる仕事です。
一方で、戦略マーケターやCMOは、選択を扱います。
どの市場を狙うか。どの顧客を狙わないか。どの訴求で勝つか。どのチャネルに投資するか。短期獲得と長期ブランドの比重をどうするか。営業改善と広告投資のどちらを優先するか。新規獲得と既存顧客育成のどちらに寄せるか。
つまり、方向を決める仕事です。
WEBマーケターは、決まった方向の中で改善する。戦略マーケターは、そもそもの方向を決める。この違いはかなり大きいと思います。
まず、CVの先を見る
――WEBマーケターが戦略側に上がるには、何から変えるべきでしょうか。
友貞: まず、CVの先を見ることです。
問い合わせが増えた。リードが増えた。資料請求が増えた。そこで止まらないことです。
そのリードは商談化しているのか。受注しているのか。単価は高いのか。粗利は残っているのか。LTVは伸びるのか。営業は売りやすいと言っているのか。
ここまで見る必要があります。
WEBマーケターは、コンバージョンをゴールにしがちです。でも事業から見ると、コンバージョンは途中です。その後に、商談、受注、継続、利益、紹介、ブランド形成があります。
CVを増やすことが、必ずしも事業成長につながるとは限りません。
質の悪いリードを増やして営業を疲弊させることもある。安い顧客だけを集めて粗利を下げることもある。短期獲得に寄りすぎてブランドを傷つけることもある。
だから、CVの先を見ることが必要です。
顧客を「数字」ではなく「意思決定者」として見る
――顧客の見方も変える必要がありますか。
友貞: あります。
WEBマーケターは、顧客を数字として見やすい。
検索キーワード。流入元。クリック率。滞在時間。離脱率。CVR。広告反応。もちろん、それらは大切です。
ただ、顧客は数字ではなく意思決定者です。
なぜ買うのか。なぜ迷うのか。なぜ他社を選ぶのか。なぜ今すぐ買わないのか。誰に相談するのか。何が不安なのか。何を信じているのか。
ここを見にいかないと、戦略にはなりません。
検索キーワードを見るだけでは足りない。広告反応を見るだけでも足りない。ヒートマップを見るだけでも足りない。
顧客が何を考え、何に迷い、何を理由に選ぶのか。そこまで見ないと、事業を伸ばすマーケティングにはなりません。
営業とつながらなければ、事業にはならない
――営業との接続も大きな論点になりそうです。
友貞: 非常に大きいです。
WEBマーケターは、リードを獲得して営業に渡すところまでで役割が終わることがあります。
でも、事業として見るなら、営業が売れているかまで見ないといけません。
リードは増えたけれど、商談化していない。商談にはなっているけれど、受注していない。受注はしているけれど、単価が低い。単価は高いけれど、継続しない。営業が欲しい顧客と、マーケティングが集めている顧客がズレている。
こういうことはよくあります。
このときに、「広告のCPAは合っています」と言っても、経営から見ると十分ではありません。
営業が売れる状態まで接続できているか。営業現場で何が詰まっているのか。提案資料は足りているのか。顧客の検討理由は整理されているのか。競合比較で負けている理由は何なのか。
ここまで見ると、WEBマーケターの役割は大きく変わります。
単なる集客担当ではなく、事業成長の設計側に近づきます。
売れない理由は、WEBの外にあることが多い
――商品や価格を見ることも必要ですか。
友貞: 必要です。
WEBマーケターは、広告やLPの改善で何とかしようとすることがあります。でも、売れない理由が商品や価格にあることも多い。
商品価値が弱い。競合との差が分かりにくい。価格に納得感がない。ターゲットと提供価値がズレている。導入後の価値が伝わっていない。そもそも市場が小さい。
こういう状態で広告やLPだけを改善しても、限界があります。
戦略マーケターになるには、広告が悪いのか、商品が悪いのか、価格が悪いのか、営業が悪いのかを分けて考える必要があります。
WEB上の数字だけを見ると、全部「CVRが低い」に見えてしまう。でも実際には、商品価値の問題かもしれない。価格の問題かもしれない。営業接続の問題かもしれない。ターゲット設定の問題かもしれない。
ここを切り分けられるかどうかが重要です。
経営の言葉で話せるか
――経営の言葉で話せるかどうかも重要でしょうか。
友貞: 重要です。
WEBマーケターは、CPAやCVRで話しがちです。もちろん、それは必要です。ただ、経営者が見ているのは、売上、利益、粗利、LTV、投資回収、成長率、競争優位、ブランド資産です。
CPAが下がりました。CVRが上がりました。流入が増えました。これだけでは、経営の会話にはなりにくい。
その結果、売上はどう変わるのか。利益は残るのか。営業効率は上がるのか。投資回収は何カ月なのか。競合に対して優位性は作れているのか。長期的なブランド価値は積み上がっているのか。
ここまで話せるようになると、経営者との会話が変わります。
WEBマーケターから戦略マーケターに変わるには、見る数字を変える必要があります。
管理画面の数字だけではなく、経営の数字で話す。これは大きな転換点です。
WEBマーケティングを捨てる必要はない
――CMOになるためには、WEBマーケティングの専門性を捨てる必要があるのでしょうか。
友貞: 捨てる必要は全くありません。
むしろ、WEBマーケティングの実務感覚は大きな武器です。
数字が見られる。改善できる。仮説検証ができる。顧客接点を理解している。施策の実行速度がある。これは非常に強い。
ただ、その武器をWEBの中だけで使うと、施策担当で止まります。
その武器を、事業全体に広げる必要がある。
広告の数字を見ながら、営業の受注率を見る。SEO流入を見ながら、顧客の検討プロセスを見る。LPのCVRを見ながら、商品価値の伝わり方を見る。SNSの反応を見ながら、ブランドの見え方を見る。MAのスコアを見ながら、顧客育成の設計を見る。
WEBマーケティングを捨てるのではなく、WEBマーケティングを事業の中に位置づける。
そこが重要です。
専門家から、事業家へ
――最後に、WEBマーケターがCMOに近づくために必要なことを一言で言うと何でしょうか。
友貞: 専門家から事業家に変わることだと思います。
WEBマーケターは、専門家として育ちやすい。広告の専門家。SEOの専門家。SNSの専門家。LP改善の専門家。解析の専門家。それ自体は素晴らしいことです。
ただ、CMOに近づくには、専門性を持ったまま、事業全体を見る必要があります。
技術のマネジメント。作業のマネジメント。ここまでは、多くのWEBマーケターが到達できます。
次に必要なのは、事業のマネジメントです。
どの市場で勝つのか。誰に選ばれるのか。なぜ利益が残るのか。営業とどう接続するのか。組織をどう動かすのか。経営目標にどう貢献するのか。
そこまで見られるようになったとき、WEBマーケターは戦略マーケターに変わります。
そして、その先にCMOという役割が見えてくる。
WEBマーケターが捨てるべきなのは、WEBマーケティングのスキルではありません。
WEBの中だけで答えを出そうとする癖です。
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