マーケティングで起きる「知っているおじさん」の弊害
マーケティングでは、用語やフレームワークを知っていることと、実際に運用できていることの間に大きな差があります。HappyMarketing代表・友貞ファラ洋輔に、なぜマケマニのような診断が必要なのかを聞きました。

「知っている」を「できている」と勘違いしないために、マケマニを作った理由
HappyMarketing代表・友貞ファラ洋輔に聞く
マーケティングの相談を受けていると、よく出てくる言葉があります。
「それは知っています」 「ペルソナは大事ですよね」 「カスタマージャーニーは作ったことがあります」 「PDCAは回しています」 「CRMも必要だと思っています」 「営業連携が大事なのは分かっています」
一見すると、問題はなさそうに見えます。
しかし、実際に現場を見ていくと、「知っている」と「できている」の間には大きな差があります。
知っている。でも、会議体はない。担当者は決まっていない。予算は取られていない。実行履歴は残っていない。改善サイクルも回っていない。他のメンバーに教えられる状態にもなっていない。
このような状態は、多くの企業で起きています。
HappyMarketing代表の友貞ファラ洋輔は、この状態を「マーケティングで起きる“知っている”おじさんの弊害」と表現します。
ここでいう「おじさん」とは、年齢や性別の話ではありません。マーケティング用語を知っていることで、実行できていると勘違いしてしまう状態のことです。
なぜ、この問題が起きるのか。なぜ、マーケティングでは「知っている」で止まりやすいのか。そして、なぜマケマニのような診断が必要なのか。
友貞に聞きました。
「知っているおじさん」とは何ですか?
友貞: 少し強い言い方ですが、マーケティングの現場には「知っているおじさん」がよく出てきます。
これは、年齢や性別の話ではありません。
マーケティング用語を知っている。フレームワークも知っている。本も読んでいる。セミナーにも参加している。広告、SEO、SNS、CRM、カスタマージャーニー、ペルソナ、LTV、ナーチャリングも聞いたことがある。
だから、「うちは分かっています」と言う。
でも実際に確認すると、やっていない。
たとえば、ターゲット顧客を理解することが大事だと知っている。でも、半年に1回の顧客ヒアリングはやっていない。ICPを見直す会議もない。営業から失注理由を回収する仕組みもない。顧客理解をLPや営業資料に反映した履歴もない。
つまり、知識としては知っているが、行動にはなっていない。
これが「知っているおじさん」の状態です。
なぜ、マーケティングでは「知っている」で止まりやすいのでしょうか?
友貞: マーケティングは、言葉だけなら覚えやすいからです。
ペルソナ。カスタマージャーニー。ブランディング。CRM。MA。LTV。コンテンツマーケティング。SEO。ナーチャリング。ファネル。KPI。PDCA。
こうした言葉は、調べればすぐ出てきます。セミナーに行けば聞けます。本にも書いてあります。
だから、知っている状態にはなりやすい。
ただ、マーケティングで本当に重要なのは、用語を知っていることではありません。
自社の顧客に対して、どう使うのか。自社の営業プロセスに、どう接続するのか。自社の商品価値を、どう伝えるのか。社内の誰が、いつ、どの会議で、どの数字を見て、どう改善するのか。
ここまで落とし込めて、初めて実務になります。
マーケティングが難しいのは、知識ではなく運用です。
能力開発の5段階で見ると、どこで止まっている会社が多いですか?

友貞: 私は、能力開発を5段階で見ることがあります。
1つ目は「知る」。 2つ目は「わかる」。 3つ目は「行う」。 4つ目は「できる」。 5つ目は「分かち合う」、つまり人に教えられる、仕組み化できている状態です。
マーケティングでは、多くの会社が1段階目の「知る」で止まっています。
知っている。聞いたことがある。大事だと思っている。必要性は理解している。
ここで止まる。
でも本来は、その先があります。
「わかる」は、自社の状況に当てはめて説明できる状態です。「行う」は、実際に行動している状態です。「できる」は、継続的に成果につながる運用ができている状態です。「分かち合う」は、担当者だけでなく、チームや組織に展開できている状態です。
ここまで行かないと、マーケティングは会社の力になりません。
「知っている」と「わかる」は、何が違いますか?
友貞: 「知っている」は、一般論として説明できる状態です。
たとえば、「ターゲット設定は大事です」と言える。「営業連携は必要です」と言える。「LTVを見るべきです」と言える。「コンテンツマーケティングは中長期で効きます」と言える。
これは知っている状態です。
一方で、「わかる」は、自社に当てはめられる状態です。
自社のターゲットは誰なのか。どの顧客は狙うべきで、どの顧客は狙わないのか。営業が欲しいリードと、マーケティングが集めているリードは合っているのか。LTVが高い顧客には、どんな特徴があるのか。コンテンツを作るなら、どの商談プロセスの不安を解消するためなのか。
ここまで言えると、「わかっている」に近づきます。
用語を知っていることと、自社で説明できることは違います。
「わかる」と「行う」の間にも差がありますか?
友貞: かなりあります。
多くの会社は、「わかっている」と言います。
ただ、実際にやっているかを聞くと、止まっていることが多い。
たとえば、顧客理解が大事だとわかっている。でも、顧客ヒアリングは予定に入っていない。
リードの質が大事だとわかっている。でも、営業とリード棚卸会をしていない。
失注理由が大事だとわかっている。でも、失注理由を分類していない。
コンテンツが大事だとわかっている。でも、商談で使われる資料やFAQに反映されていない。
つまり、わかっているが、行っていない。
ここが一番多いです。
マーケティングでは、「わかっているつもり」が非常に厄介です。本人たちは理解していると思っているので、問題に気づきにくい。でも、行動にはなっていない。だから成果にもつながらない。
「できている」と言えるのは、どんな状態ですか?
友貞: 「できている」は、単発で実施した状態ではありません。
継続して運用されている状態です。
たとえば、顧客ヒアリングであれば、1回やっただけでは「できている」とは言いません。
半年に1回、既存顧客や失注顧客にヒアリングしている。内容が記録されている。営業や商品開発とも共有されている。その結果が、LP、広告文、営業資料、FAQ、商品改善に反映されている。
ここまであって、できていると言えます。
リード棚卸会でも同じです。
営業とマーケティングが月次で集まっている。個別リードの状況を確認している。商談化しない理由を確認している。受注したリードの特徴を見ている。次に追うリード、育成するリード、除外するリードを決めている。その内容が広告やLP、コンテンツに反映されている。
ここまで運用できているかどうかです。
マーケティングでは、「やったことがある」と「できている」は違います。
5段階目の「分かち合う」とは、マーケティングでは何を指しますか?
友貞: 「分かち合う」は、他の人に教えられる状態です。
もっと言えば、仕組み化されている状態です。
担当者だけがわかっているのではなく、チームで共有されている。営業も理解している。経営も判断材料として使っている。新しく入ったメンバーにも引き継げる。手順や判断基準がドキュメント化されている。定例会議やレポートに組み込まれている。
この状態になると、マーケティングは個人技ではなくなります。
会社の仕組みになります。
たとえば、広告改善の考え方が担当者の頭の中にしかない場合、その人が辞めると終わります。
でも、仮説、実行、検証、改善履歴が残っていて、次の担当者も見られる状態なら、組織に残ります。
顧客理解も同じです。
営業担当者が個人的に顧客のことを知っているだけでは不十分です。その情報が共有され、整理され、施策に反映され、次の人にも使える状態になっている必要があります。
ここまで行って、ようやく「分かち合う」です。
なぜ、多くの企業は「知っている」を「できている」と勘違いするのでしょうか?
友貞: 理由は2つあります。
1つは、マーケティングが見えにくい仕事だからです。
広告を出している。SNSを投稿している。記事を作っている。メルマガを配信している。展示会に出ている。MAを入れている。
こうした外形的な活動があると、「やっている」ように見えます。
でも、本当に見るべきなのは、活動の有無ではありません。
なぜその施策をやっているのか。誰に向けているのか。何を検証しているのか。どの数字を見ているのか。営業や商品改善にどうつながっているのか。次に何を変えるのか。
ここまで見ないと、できているかどうかは判断できません。
もう1つは、自己申告ではズレるからです。
人は、自分の行動を少しよく見積もります。
ダイエットでも同じです。
「お菓子は食べていません」と言っている人が、よく聞いてみると、仕事中にチョコをつまんでいる。飲み物に砂糖が入っている。週末にケーキを食べている。本人の中では「食べていない」つもりでも、記録すると食べている。
マーケティングも同じです。
「顧客理解はできています」と言う。でも、直近1年で顧客ヒアリングをしていない。
「営業連携はしています」と言う。でも、リード棚卸会はない。
「PDCAは回しています」と言う。でも、検証記録は残っていない。
「コンテンツは活用しています」と言う。でも、営業資料や商談には使われていない。
自己認識と実態にはズレがあります。
だから、診断が必要になります。
マケマニは、そのズレを見るために作ったのですか?
友貞: そうです。
マケマニの開発背景には、この「知っている」と「できている」のズレがあります。
マーケティングの相談を受けると、最初は多くの企業が「うちはある程度やっています」と言います。
ターゲットはあります。広告もやっています。SNSもやっています。営業連携もしています。KPIも見ています。コンテンツも作っています。
でも、詳しく見ていくと、実態は違う。
ターゲットはあるが、見直されていない。広告はあるが、商談や受注まで見ていない。SNSは投稿しているが、誰に何を伝えるかが曖昧。営業連携はしていると言うが、定例会議はない。KPIはあるが、経営成果とつながっていない。コンテンツはあるが、営業やナーチャリングに使われていない。
このようなズレを、会話だけで見抜くのは難しいです。
だから、診断項目に分解する必要があります。
知っているのか。わかっているのか。行っているのか。できているのか。分かち合えているのか。
この段階で見ることで、現在地が分かります。
HappyMarketingでは、マーケティングの機能不全要因として、役割の不明確さ、勘と経験に基づく意思決定、部門間連携不足、評価基準の不適切さなどを整理しています。マケマニは、こうした機能不全を感覚ではなく診断項目として確認するためのものです。
具体的には、どのように診断するのでしょうか?
友貞: たとえば、「ターゲット顧客を理解しているか」という項目があります。
普通に聞くと、多くの会社は「理解しています」と答えます。
そこで終わると意味がありません。
マケマニでは、段階で見ます。
「知る」は、ターゲット設定が重要だと知っている状態です。
「わかる」は、自社のターゲット顧客やICPを説明できる状態です。
「行う」は、顧客ヒアリング、営業ヒアリング、失注理由分析などを実施している状態です。
「できる」は、それを定期的に行い、広告、LP、営業資料、コンテンツに反映している状態です。
「分かち合う」は、その顧客理解がチームで共有され、新しい担当者にも引き継げる状態です。
このように分けると、単に「ターゲットはありますか?」と聞くより、実態が見えます。
「あります」と言っていても、実は2段階目で止まっていることが多い。
営業連携でも同じことが起きますか?
友貞: 起きます。
営業連携は、特に「知っている」で止まりやすいです。
営業と連携することが大事だと知っている。営業にリードを渡している。営業からたまにフィードバックをもらっている。
これだけで、連携できていると思っている会社があります。
でも、実際にはリード棚卸会がない。個別リードの状況を確認していない。商談化しなかった理由を見ていない。受注した顧客の特徴を整理していない。営業が追いやすいリードの条件を更新していない。広告やLPに営業のフィードバックが反映されていない。
この状態では、連携できているとは言えません。
営業連携も5段階で見るべきです。
知る。営業連携が重要だと知っている。
わかる。自社で営業とマーケティングがどこで接続すべきか説明できる。
行う。リード棚卸会や失注理由の確認を実施している。
できる。定例化され、リードの質や商談化率改善につながっている。
分かち合う。営業とマーケティングの共通ルールとして運用され、新人にも説明できる。
ここまで見ると、本当に連携できているかが分かります。
企業がまず見るべき現在地はどこですか?
友貞: まず、自社がどの項目で「知っている止まり」になっているかを見るべきです。
マーケティングの問題は、「何も知らない」ことよりも、「知っていると思っているのに実行されていない」ことの方が多いです。
たとえば、次のような項目です。
ターゲット顧客の見直し。顧客ヒアリング。リード棚卸会。営業との失注理由確認。広告の商談・受注までの追跡。コンテンツの営業活用。CRMやナーチャリング。KPIの経営成果との接続。マーケティング担当者の評価制度。施策ごとの役割分担。検証記録の蓄積。
これらは、どの会社でも「大事だ」とは言います。
でも、大事だと言っていることと、できていることは違います。
まずは、マケマニで現在地を見る。
知っているだけなのか。わかっているのか。行っているのか。できているのか。分かち合えているのか。
ここを確認する必要があります。
点数化すると、どう見ればよいですか?
友貞: 5段階で見ると分かりやすいです。
1点は「知る」です。用語や考え方は知っているが、自社での定義や運用には落ちていない状態です。
2点は「わかる」です。自社に当てはめて説明できる。ただし、実行はまだ不定期、または担当者任せになっている状態です。
3点は「行う」です。実際に行動している。顧客ヒアリング、営業連携、レポート、改善会議などを実施している。ただし、継続性や成果への接続はまだ弱い状態です。
4点は「できる」です。定例化され、記録も残り、施策改善に反映されている状態です。担当者が変わっても、一定の運用が続けられます。
5点は「分かち合う」です。チームや他部門に共有され、教育できる状態です。手順、判断基準、記録、会議体が整っており、仕組みとして運用されています。
この点数で見ると、「知っている」と「できている」を混同しにくくなります。
多くの会社は、自己評価では4点をつけます。
でも、実態を見ると1点か2点のことがあります。
ここを正しく見るために診断があります。
「知っている」で止まっている会社には、どんな弊害がありますか?
友貞: 一番の弊害は、改善が始まらないことです。
本人たちは「わかっている」と思っている。だから、問題だと思っていない。
でも、実際には行動していない。行動していないので、データもない。データがないので、改善もできない。改善していないので、成果も出ない。
こうなります。
もう一つの弊害は、社内の会話が抽象的になることです。
「ターゲットが大事」 「顧客理解が大事」 「営業連携が大事」 「コンテンツが大事」 「PDCAが大事」
このような会話で終わってしまう。
本来は、次のように話すべきです。
直近半年で、何件の顧客ヒアリングをしたのか。営業と何回リード棚卸会をしたのか。失注理由を何分類に整理したのか。その結果、LPのどこを変えたのか。営業資料のどこを直したのか。次回の会議で何を確認するのか。
ここまで具体化しないと、マーケティングは進みません。
「知っているおじさん」の問題は、知識があることではありません。
知識を行動に変えないまま、できていると思ってしまうことです。
マケマニを受ける企業には、どのように使ってほしいですか?
友貞: まずは、自社の現在地を冷静に見るために使ってほしいです。
マケマニは、できていない会社を責めるためのものではありません。
どこで止まっているかを見るためのものです。
知っているで止まっているのか。わかるまでは進んでいるのか。行動はしているが、継続していないのか。できているが、属人化しているのか。分かち合えていて、仕組みになっているのか。
この現在地が分かれば、次にやることが決まります。
1点なら、まず定義と目的を整理する。2点なら、実行する会議体や担当者を決める。3点なら、継続運用と記録を整える。4点なら、他部門共有や教育に広げる。5点なら、仕組みとして維持しながら改善する。
診断をすると、議論が具体的になります。
「うちは顧客理解が弱い」ではなく、「顧客理解は重要だと知っているが、半年に1回のヒアリングが設計されていない」という話になります。
「営業連携が足りない」ではなく、「リード棚卸会がなく、商談化しない理由がマーケティングに戻っていない」という話になります。
ここまで具体化できれば、改善できます。
最後に、企業が最初にやるべきことは何でしょうか?
友貞: まず、「知っている」と「できている」を分けることです。
マーケティングでは、知っていることが多いほど、できていると錯覚しやすくなります。
でも、知っているだけでは何も変わりません。
わかっているのか。行っているのか。できているのか。分かち合えているのか。
この段階で見なければいけません。
ダイエットで「お菓子は食べていない」と思っていても、実際に記録すると食べていることがあります。
マーケティングも同じです。
「顧客理解はできている」と思っていても、記録を見るとヒアリングしていない。
「営業連携はできている」と思っていても、リード棚卸会はない。
「PDCAは回している」と思っていても、検証ログがない。
「コンテンツは活用している」と思っていても、営業現場では使われていない。
だから、まず診断する。
感覚ではなく、項目で見る。自己申告ではなく、行動と運用で見る。知識ではなく、仕組みで見る。
マケマニは、そのための診断です。
マーケティングで本当に危ないのは、知らないことではありません。
知っているつもりで、できていないことです。
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