マーケティングのドーナツ化現象とは何か
広告、SEO、SNS、展示会、動画、MAなど施策は増えているのに成果が出ない。企業のマーケティング活動で中心が空洞化し、外側の施策だけが増える「マーケティングのドーナツ化現象」を整理します。

企業のマーケティング活動は、以前よりもはるかに複雑になりました。
広告を出す。SEO記事を書く。SNSを運用する。展示会に出る。ウェビナーを開催する。動画を作る。MAツールを導入する。メルマガを配信する。ホワイトペーパーを作る。アクセス解析をする。CRMを整備する。インサイドセールスを立ち上げる。
一見すると、多くの企業が以前よりもマーケティングに熱心に取り組んでいるように見えます。
実際、現場に入ると施策そのものは増えています。担当者も忙しい。会議も多い。レポートも増えている。KPIも設定されている。ツールも導入されている。
それなのに、成果が出ていない。
問い合わせは増えない。リードは取れるが商談にならない。SNSの投稿は続いているが売上につながらない。広告費は使っているのにCPAばかり悪化する。展示会で名刺は集まるが、その後の商談化率が低い。オウンドメディアの記事は増えているが、事業成果への貢献が見えない。
なぜ、これほど施策をやっているのに成果が出ないのでしょうか。
その理由は、マーケティング活動の外側ばかりが増え、中心にあるべきものが失われているからです。
私はこれを、マーケティングの「ドーナツ化現象」と呼んでいます。
マーケティングのドーナツ化現象とは
マーケティングのドーナツ化現象とは、企業やブランドがマーケティング活動において中心部分を失い、外側の活動にばかり集中してしまう状態です。
ドーナツには外側の輪があります。しかし、中心には穴が空いています。
マーケティングでも同じことが起きます。
外側には、広告、リサーチ、SEO、展示会、セミナー、解析、動画、MA、コンテンツなど、多くの施策が並びます。しかし、中心にあるべき経営戦略、マーケティング戦略、体制構築、中核メッセージ、ブランド価値、顧客理解が抜け落ちている。
この状態になると、企業は「マーケティングをやっている」のに、マーケティングが機能しなくなります。
施策はある。しかし、戦略がない。
発信はある。しかし、メッセージがない。
数値はある。しかし、判断基準がない。
ツールはある。しかし、活用思想がない。
コンテンツはある。しかし、誰に何を届けるのかが曖昧である。
活動量は増えているのに、事業成果につながる構造がない。これが、マーケティングのドーナツ化です。
症状1 中核メッセージが曖昧になる
ドーナツ化が起きる企業には、いくつかの共通症状があります。
第一に、中核メッセージが曖昧になります。
自社は何者なのか。誰にとって、どのような価値を持つ存在なのか。競合と何が違うのか。なぜ顧客は自社を選ぶべきなのか。どの市場で、どの立ち位置を取るのか。
この問いに、社内で明確に答えられない。
経営者は経営者の言葉で語る。営業は営業の言葉で語る。広報は広報の言葉で語る。人事は人事の言葉で語る。マーケティング担当者は、広告やSNSの言葉で語る。
それぞれの言葉は間違っていません。しかし、ひとつにつながっていない。
その結果、Webサイト、営業資料、広告、採用ページ、SNS、展示会ブース、プレスリリースで、すべて微妙に違うことを言っている状態になります。
顧客から見ると、何の会社なのか分かりにくい。社員から見ても、何を伝えるべきか分かりにくい。
企業の中心にあるべきメッセージが曖昧なまま、外側の発信だけが増えていく。これがドーナツ化の第一の症状です。
症状2 外部施策への依存が強くなる
第二に、外部施策への依存が強くなります。
広告代理店に頼む。SEO会社に頼む。SNS運用会社に頼む。制作会社に頼む。PR会社に頼む。動画会社に頼む。MAツールを導入する。コンサルタントにレポートを作ってもらう。
もちろん、外部パートナーを活用すること自体は悪くありません。むしろ、専門性を借りることは必要です。
問題は、外部パートナーに渡す前の「中心」が社内にないことです。
何を達成したいのか。誰に届けたいのか。何を価値として伝えたいのか。どの施策を優先すべきなのか。成果を何で判断するのか。社内の誰が意思決定するのか。
これらが曖昧なまま外部に発注すると、外部パートナーは自分たちの得意な施策を提案します。
広告会社は広告を提案する。SEO会社は記事制作を提案する。SNS会社は投稿運用を提案する。制作会社はサイトリニューアルを提案する。動画会社は動画制作を提案する。MAベンダーはツール活用を提案する。
どれも間違いではありません。
しかし、会社全体の課題から逆算されていなければ、施策が増えるだけです。
企業側も、発注したことで安心してしまいます。「マーケティングをやっている」という感覚は生まれる。しかし、中心の設計がないため、成果は出にくい。
外部の施策を増やすことで、中心の不在をごまかしてしまう。これがドーナツ化の第二の症状です。
症状3 社内コミュニケーションが分断される
第三に、社内コミュニケーションが分断されます。
マーケティングは本来、部門横断の仕事です。商品開発とつながる。営業とつながる。カスタマーサポートとつながる。広報とつながる。人事とつながる。経営とつながる。
なぜなら、顧客に届く価値は、ひとつの部門だけで作られるものではないからです。
商品が弱ければ、広告で売り続けるのは難しい。営業が顧客の声を共有しなければ、市場理解は深まりません。カスタマーサポートの声を拾わなければ、継続利用の理由も離脱理由も見えない。広報とマーケティングが分断されれば、社会に向けたメッセージと販売に向けたメッセージがずれる。採用とブランドが分断されれば、外に語る企業像と中にある企業文化がずれる。
それにもかかわらず、多くの企業ではマーケティングが部門の中に閉じ込められています。
マーケティング部門は広告やリード獲得を担当する。営業部門は売上を担当する。商品部門は商品開発を担当する。広報部門はメディア対応を担当する。人事部門は採用を担当する。
それぞれの部門が、それぞれのKPIを追う。
マーケティングはリード数を見る。営業は受注数を見る。広報は掲載数を見る。人事は応募数を見る。経営は売上を見る。
しかし、顧客から見れば、それらはすべて同じ会社との接点です。
部門ごとのKPIはある。しかし、顧客から見た一貫性がない。社内の役割はある。しかし、価値を届ける全体設計がない。
これは、まさにドーナツ化した組織の状態です。
症状4 顧客との関係が希薄になる
第四に、顧客との関係が希薄になります。
マーケティングという言葉を使っているのに、顧客のことをあまり知らない企業は少なくありません。
顧客はなぜ買っているのか。何に困っていたのか。なぜ競合ではなく自社を選んだのか。導入前に何を不安に思っていたのか。使い始めた後に何を評価しているのか。どこで期待を裏切っているのか。なぜ継続しているのか。なぜ離脱するのか。
こうした問いが、社内で十分に共有されていない。
代わりに見ているのは、クリック率、表示回数、CPA、CVR、フォロワー数、記事本数、セッション数、リード数です。
もちろん、数値は重要です。しかし、数値だけでは顧客理解にはなりません。
クリック率が上がったとしても、顧客が何に期待したのかは分からない。CVRが下がったとしても、どこで不安になったのかは分からない。リード数が増えても、なぜ商談化しないのかは分からない。フォロワーが増えても、事業にどう貢献しているのかは分からない。
ドーナツ化したマーケティングでは、顧客が数字に置き換えられます。
顧客の声ではなく、管理画面を見る。問題の会話ではなく、レポートを見る。現場の違和感ではなく、平均値を見る。
その結果、顧客との本当の関係が薄くなります。
マーケティングは本来、顧客理解から始まります。しかし、ドーナツ化した企業では、顧客理解よりも施策運用が先に来ます。
「誰に届けるのか」よりも、「何を投稿するか」が先になる。「何を価値として伝えるのか」よりも、「どの媒体に出すか」が先になる。「なぜ買われるのか」よりも、「どうCVを増やすか」が先になる。
順番が逆なのです。
施策が悪いのではない
ここで誤解してはいけないことがあります。
広告が悪いのではありません。SEOが悪いのではありません。SNSが悪いのではありません。展示会が悪いのではありません。動画が悪いのではありません。MAが悪いのではありません。コンテンツマーケティングが悪いのではありません。
問題は、それらの施策が中心と接続されていないことです。
広告は、価値を届けるための接点です。SEOは、顧客の問いに応えるための導線です。SNSは、関係性を育てるための接触面です。展示会は、対話を生むための場です。動画は、言葉だけでは伝わらない価値を伝える表現です。MAは、顧客との関係性を設計するための仕組みです。
すべての施策は、本来、中心につながっているから意味があります。
その中心には、顧客理解、価値設計、中核メッセージ、経営戦略、組織の合意がなければなりません。
中心のないマーケティングは、忙しい。しかし、強くない。
中心のあるマーケティングは、施策を減らすこともできます。やらないことを決められる。外注先を正しく使える。KPIを整理できる。顧客との関係を深められる。ブランドの一貫性を保てる。営業とつながる。経営とつながる。
マーケティングの仕事は、施策を増やすことではありません。
企業の中心にある価値を、顧客と社会に届く形に変えることです。
ドーナツ化を防ぐために必要なこと
マーケティングのドーナツ化を防ぐとは、つまり企業の中心を取り戻すことです。
そのためには、まず「何をやるか」ではなく、「何を中心に置くか」を考える必要があります。
誰に、どの価値を、なぜ届けるのか。それをどう事業成果に変えるのか。社内の誰が、どの役割を担うのか。何をやめ、何に集中するのか。
この中心が見えたとき、施策は初めて意味を持ちます。
広告をやるかどうかではない。SNSをやるかどうかではない。SEOをやるかどうかではない。動画を作るかどうかではない。MAを入れるかどうかではない。
先に考えるべきことは、中心です。
施策は、増やせばよいものではありません。中心につながっているから、意味があります。
広告も、SEOも、SNSも、展示会も、動画も、MAも、コンテンツも、すべて外側の輪です。
その輪を支える中心には、顧客理解、価値設計、中核メッセージ、経営戦略、組織の合意が必要です。
中心のないマーケティングは、忙しい。しかし、成果につながりにくい。
中心のあるマーケティングは、施策の数が少なくても強い。なぜなら、すべてが同じ方向を向くからです。
マーケティングの仕事は、外側の施策を売ることではありません。
企業の中心にある価値を、顧客と社会に届く形に変えることです。
マーケティングのドーナツ化を防ぐことは、企業の中心を取り戻すことです。
そして、その中心を取り戻す仕事こそ、これからのマーケターが高く買われる理由になります。
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