世界のマーケター2026/06/015分で読める

世界のマーケターは何を語っているか? 第2回:セス・ゴーディン

セス・ゴーディンのPermission Marketing、Purple Cow、This Is Marketingの思想から、露出競争ではなく語られる存在になるためのマーケティングを読み解きます。

世界のマーケターセス・ゴーディンPermission MarketingPurple Cowファンマーケティングコミュニティ

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Purple Cowとコミュニティを表す抽象キービジュアル
Visual: Generated for Makemani

「目立つな、ではなく。“語られる存在”になれ」

マーケティングの世界には、コトラー以前、コトラー以後というような分類があります。

しかし、インターネット時代のマーケティングを語るなら、セス・ゴーディン以前、セス・ゴーディン以後という分け方もできるかもしれません。

セス・ゴーディンはアメリカのマーケター、起業家、作家です。Yoyodyneの創業などを経て、メールマーケティング、コミュニティマーケティング、ファンマーケティング、口コミ拡散、パーソナルブランドといった考え方に大きな影響を与えてきました。

彼が評価されている理由は、広告の話をしているようで、実際には「人の注目」と「信頼」の構造を語っているからです。

Permission Marketingが変えたもの

セス・ゴーディンを語るうえで外せない言葉があります。

それが、Permission Marketingです。

彼は1999年の著書『Permission Marketing』で、企業は顧客の注意を奪うのではなく、顧客から話を聞く許可を得るべきだと語りました。

当時の広告は、テレビCM、新聞広告、バナー広告、DMなど、割り込むことが前提でした。企業が伝えたいタイミングで、企業が伝えたい内容を、できるだけ多くの人に届ける。これが広告の基本的な発想でした。

しかし、ゴーディンはその前提を疑いました。

人は広告を見たいわけではありません。だから企業は、勝手に話しかけるのではなく、まず聞いてもらう権利を獲得しなければならない。

これは現在のSNSにも通じています。

フォロワーとは、許可された接点です。メールマガジンも同じです。YouTubeの登録者も同じです。LINEの友だち登録も同じです。

企業が一方的に届けるのではなく、顧客が「聞いてもよい」と思った関係性の中で届ける。セス・ゴーディンは20年以上前から、広告よりも関係性が重要になることを語っていました。

Purple Cowは「目立つこと」ではない

語られる存在になることで、小さなコミュニティから広がっていく
セス・ゴーディンが重視するのは、単に目立つことではなく、人が語りたくなる理由と、それを信じてくれる小さな集団を作ることです。

セス・ゴーディンを有名にしたもう一つの概念が、Purple Cowです。

紫色の牛を想像してください。普通の牛は見慣れています。しかし紫色の牛がいたら、誰かに話したくなります。写真を撮るかもしれません。SNSに投稿するかもしれません。

つまり、Remarkableになります。

ここで重要なのは、Remarkableを単に「素晴らしい」という意味で捉えないことです。ゴーディンは、Remarkableを「誰かが語りたくなること」として扱っています。

マーケティングとは、商品をただ目立たせることではありません。人が語りたくなる状態を作ることです。

これは現代のSNS時代に極めて重要です。

多くの企業は、もっと広告費を増やそう、もっと投稿数を増やそう、もっと露出しようと考えます。しかし、ゴーディンの視点に立つと問いは逆になります。

広告を増やす前に、その商品は語る価値があるのか。

これはかなり厳しい問いです。なぜなら、ほとんどの商品は普通だからです。普通の商品を普通の広告で普通に売ろうとしても、反応は鈍くなります。そこでさらに広告費を増やしても、問題の中心が広告ではないなら、効率は下がっていきます。

問題は、商品が語られないことです。

語られる商品を作ることも、マーケティングの仕事

セス・ゴーディンの思想で面白いのは、マーケティング部門の役割を広告制作だけに閉じないことです。

本来のマーケティングは、施策を増やす仕事ではありません。なぜ人が語るのかを設計する仕事です。

SNS運用、SEO、広告運用、動画制作。もちろん、どれも重要です。しかし、話題にならない商品を話題にし続けることは難しい。顧客が語りたくなる理由がなければ、投稿数を増やしても、広告露出を増やしても、広がりは限定的になります。

だから見るべきなのは、露出量だけではありません。

誰が、どんな場面で、誰に話したくなるのか。何を見たときに紹介したくなるのか。なぜその商品を選んだことを、自分の言葉で語れるのか。

この問いがないまま施策を増やすと、マーケティングは消耗戦になります。

People like us do things like this

セス・ゴーディンの著書『This Is Marketing』で有名な考え方に、次の言葉があります。

People like us do things like this.

直訳すれば、「私たちのような人は、こういうことをする」です。

これは、マーケティングを商品説明ではなく、所属や文化の設計として見る考え方です。

人は商品を買っているようで、実際には所属を買っています。スターバックスを飲む。Appleを使う。特定のブランドを選ぶ。特定のコミュニティに参加する。そこには、「自分はこういう人間だ」という自己認識があります。

だからマーケティングとは、機能説明だけではありません。アイデンティティ設計でもあります。

人は機能だけで買いません。安心感、共感、所属、信頼、価値観にお金を払います。だからゴーディンは、大衆を狙うよりも、信じてくれる小さな集団を作ることを重視します。

熱狂する少数を作る。その少数が広げる。

現在のインフルエンサーマーケティング、コミュニティマーケティング、ファンマーケティングの原型は、かなりの部分でセス・ゴーディンの思想につながっています。

露出競争ではなく、信頼と共感の設計

セス・ゴーディンが教えてくれることを一言でまとめるなら、「目立とうとするな。語られる存在になれ」です。

広告を増やす前に、誰かが話したくなる理由はあるか。フォロワーを増やす前に、その人たちは何に共感しているのか。認知を取る前に、誰に選ばれたいのか。

これは、広告やSNSを否定する話ではありません。広告やSNSが効く条件を整える話です。

商品が語られない。ブランドに共感されない。顧客が紹介したくなる理由がない。こうした状態で露出だけを増やしても、マーケティングは価格競争や投稿量の競争に近づきます。

ゴーディンの思想は、その逆を示しています。

マーケティングとは露出競争ではなく、信頼と共感の設計です。

マケマニで見たい論点

マケマニの診断でも、広告費や投稿数だけを見ればよいわけではありません。

見るべきなのは、顧客が語りたくなる理由があるかです。

顧客は、その商品を誰かに紹介したくなるのか。既存顧客は、なぜ使い続けているのか。その理由は言語化されているのか。営業資料、LP、SNS、広告、紹介施策で、その理由は一貫して伝わっているのか。

もし語られる理由がないなら、広告を増やす前に価値整理が必要です。もし顧客が共感している理由があるなら、それを見つけ、言葉にし、施策全体へ反映する必要があります。

セス・ゴーディンの思想は、マーケティングを「目立つための技術」から「語られるための設計」へ引き戻してくれます。

参考

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