世界のマーケター2026/06/014分で読める

世界のマーケターは何を語っているか? 第1回:ローリー・サザーランド

ローリー・サザーランドの行動経済学と広告の思想から、人は合理的に商品を選んでいるわけではないという前提を、日本企業のマーケティング課題として読み解きます。

世界のマーケターローリー・サザーランド行動経済学広告ブランド戦略顧客理解

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行動経済学と価値の認識を表す抽象キービジュアル
Visual: Generated for Makemani

「人は、合理的に商品を選んでいるわけではない」

マーケティングの世界には、数字やロジックだけでは説明できないことがあります。

同じ商品なのに、なぜか売れる。同じ価格なのに、なぜか選ばれる。同じ性能なのに、なぜか高く評価される。

この「なぜ」を追い続けてきた人物がいます。ローリー・サザーランドです。

英国の広告会社Ogilvy UKのVice Chairmanであり、心理学や行動経済学を広告・ブランド戦略に持ち込んだ人物として知られています。広告業界の人間でありながら、彼が一貫して語っているのは、広告を単なる認知獲得や販促手段として見る考え方ではありません。

彼が見ているのは、人間がどのように価値を感じ、どのように意思決定しているかです。

広告を「認識を変える技術」として見る

同じ商品でも、認識のされ方によって価値が変わる
サザーランドの視点では、価値は商品そのものだけで決まるのではなく、顧客がどのような文脈で認識するかによって変わります。

ローリー・サザーランドの代表的なTED Talk「Life lessons from an ad man」では、広告について次のような説明がされています。

Advertising adds value to a product by changing our perception, rather than the product itself.

広告は、商品そのものを変えるのではなく、人がその商品をどう認識するかを変えることで価値を生む。これは非常に重要な視点です。

多くの企業は、商品を改善する、機能を増やす、価格を下げる、品質を高めるという方向で考えます。もちろん、それは重要です。しかし、サザーランドの視点に立つと、次の問いが出てきます。

本当に問題は商品なのか。

たとえば、飛行機の搭乗待ち時間を考えます。多くの経営者は、待ち時間を短縮することを考えます。しかし、待ち時間そのものを短くできなくても、待っている時間を楽しく感じさせることはできるかもしれません。結果として顧客満足度が上がるなら、それも価値創造です。

これは一見すると非合理に見えます。しかし人間は、実際の価値だけでなく、感じた価値によって行動します。

人は論理だけで買わない

サザーランドは著書『Alchemy』の中で、人間の意思決定には合理的ロジックとは別に、心理的なロジックがあると語っています。ここで重要なのは、人間が非合理だからマーケティングが不正確になる、という話ではありません。

人間が完全には合理的でないからこそ、マーケティングには価値があるということです。

人は論理だけで買うわけではありません。安心感で買います。納得感で買います。周囲との比較で買います。選びやすさで買います。ストーリーで買います。

だから彼は、マーケティングを説得の技術としてではなく、人間理解の技術として扱っています。

企業がロジックばかりを最適化していると、顧客の意思決定を間違った問題として扱ってしまうことがあります。価格を下げるべきなのか。広告費を増やすべきなのか。機能を追加すべきなのか。LPを変えるべきなのか。もちろん、それらが必要な場合もあります。

ただ、その前に見るべきことがあります。

顧客は、何に価値を感じているのか。

「良い商品なのに売れない」の本当の意味

「良い商品なのに売れない」という言葉をよく聞きます。

しかし、サザーランドの視点で見ると、それは少し違って見えます。良い商品なのに売れないのではなく、価値が顧客の認識の中で成立していないのかもしれません。

顧客は商品の内部を見ていません。顧客が見ているのは、比較対象、価格の意味、購入理由、安心材料、周囲からの評価、選ぶ文脈です。

そのため、マーケティングの仕事は商品を良くすることだけではありません。価値が伝わる構造を設計することでもあります。

日本企業にも、この視点は重要です。広告を変える。クリエイティブを変える。SNSを増やす。LPを改善する。こうした施策は必要です。

しかし本当に見るべきなのは、顧客がなぜ価値を感じていないのかです。

施策を増やす前に、価値の見え方を変えられないか

広告費を増やす。SEO記事を増やす。SNS投稿を増やす。LPを改善する。それでも成果が出ないとき、多くの企業はさらに施策を追加します。

ですが、サザーランドの思想から学ぶなら、問いは少し変わります。

商品を変える前に、価値の見え方を変えられないか。価格を下げる前に、比較のされ方を変えられないか。広告を増やす前に、選ばれる理由を整理できないか。

これは、施策を否定する話ではありません。むしろ、施策が成果につながる条件を整える話です。

広告、SNS、SEO、LP、インフルエンサー施策。どれも、顧客が価値を感じる文脈とつながっていなければ、単なる接触回数の増加で終わってしまいます。

マーケティングとは、施策の技術だけではありません。人間の認識を理解し、設計する仕事です。

マケマニで見たい論点

マケマニの診断でも、単に「広告をやっているか」「SNSをやっているか」「SEOをやっているか」だけを見るわけではありません。

見るべきなのは、その施策が顧客の認識とつながっているかです。

顧客は何を価値だと感じているのか。競合と比べたとき、何が選ぶ理由になっているのか。価格は高いのか、それとも高く見えているだけなのか。安心材料は足りているのか。営業やLPや広告で、同じ価値が伝わっているのか。

こうした問いを持たないまま施策だけを増やすと、マーケティングは複雑になります。しかし、顧客が価値を感じる構造を整理できれば、施策は絞れます。

ローリー・サザーランドが教えてくれるのは、マーケティングの中心に人間理解を置くことです。

人は合理的ではありません。だからこそ、マーケティングには価値があります。

参考

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